2018年4月27日金曜日

【報告1】「国敗れて、記憶あり」の山下発言・経過観察問題の口頭陳述(2018.4.25裁判長交替による弁論更新)

福島で子どもたちの健康を脅威にさらした責任を負う者は、ハーグで現在、責任を問われているアフリカやアジアの指導者らと同じ道を歩むべきである」(原告準備書面(5)第5、山下発言問題)
【報告2】「国敗れても、責任なし」を貫いた被告国の口頭陳述

【報告「国敗れて、命あり」を貫いた原告本人の意見陳述

一昨日の4月25日、福島地裁で、子ども脱被ばく裁判の第14回目の弁論が開かれました。この4月に裁判長が交替(金澤秀樹→遠藤東路)。そのため、これまでの裁判で主張した概要を、口頭で陳述しました(弁論の更新)。
以下は、そのうち、山下発言・経過観察問題についての口頭陳述です(なお、関連する写真を追加)。裁判所に提出した書面は-->こちら

  ****************
平成26年(行ウ)第8号ほか
原告  原告1-1ほか
被告  国ほか
弁論更新に際しての口頭陳述要旨
(山下発言問題・経過観察問題について)
  2018年 4月25日
福島地方裁判所民事部 御中        
原告ら訴訟代理人   柳 原  敏 夫
ほか18名  

、原発事故直後、当時の山下俊一長崎大教授(以下、山下アドバイザーという)が福島県に出向いた理由
それは、放射能の危険から救済を求める福島県民の「県内の妊婦や子どもたちを避難させた方がいいのではないか」といった声を封じ込めるためである。
原発事故直後の3月15日未明から、福島第一原発2号機の爆発が懸念され、福島市でも夕方から放射線量が急上昇しため、福島県立医科大学の教職員の間で「県内の妊婦や子どもたちを避難させた方がいいのではないか」と話合いが持たれ「(県内の妊婦や子どもたちを)すぐに避難を」という声が相次いだため、17日、福島県立医科大学理事長から山下アドバイザーに「福島医大がパニックだ。すぐに来てほしい」と懇請され、翌朝、自衛隊のヘリで長崎から福島入りし、
2011年3月18日、福島県立医科大学に初めて登場した山下アドバイザー(長崎大HPより)

19日、被告福島県(以下、福島県という)からの要請で、県放射線健康リスク管理アドバイザーへの就任が決まり、翌20日からいわき市を皮切りに、「原発事故の放射線健康リスク」と題した講演会を次々とこなし、福島県内のテレビ・ラジオにも積極的に出演し、
100マイクロシーベルトまでならなければまったく心配いりませんので、どうぞ胸を張って歩いてください》とか
科学的に言うと、環境の汚染の濃度、マイクロシーベルトが、100マイクロシーベルト/hを超さなければ、全く健康に影響及ぼしません。ですから、もう、5とか、10とか、20とかいうレベルで外に出ていいかどうかということは明確です。昨日もいわき市で答えられました。「いま、いわき市で外で遊んでいいですか」「どんどん遊んでいい」と答えました。福島も同じです。心配することはありません。是非、そのようにお伝えください。
といった100ミリシーベルト発言とすら矛盾する発言をくり返し、放射線に対する感受性についても
人は二十歳を過ぎると放射線の感受性は殆どありません。もう限りなくゼロです。大人は放射線に対して感受性が殆どないということをまず覚えてください。‥‥放射線の影響は、実はニコニコ笑ってる人には来ません。クヨクヨしてる人に来ます。これは明確な動物実験でわかっています。
と発言し、彼の講演録は福島県内の市の市政だよりをはじめ、多くの行政広報誌で採録されて配布された。こうして、山下アドバイザーの発言は次から次へと拡散され、県民に絶大な影響を及ぼし、その結果、それまで放射線の健康影響を憂慮し藁をもすがる思いでいた福島県民の多くは、山下アドバイザーの「100%安全です」や「(飯館村で)放射線は心配することはない」といった話を聞き、「すっかり安心して」警戒心を解いてしまったのである。


2013年3月15日福島民報
       「第二部 安全の指標(3) 研究者の苦悩 予想されていた批判」に掲載


2、山下アドバイザーの原発事故以前の発言
 しかし、山下アドバイザーは原発事故以前は、チェルノブイリ周辺住民について、
放射線降下物の影響により、放射性ヨードなど による急性内部被ばくや、半減期の長いセシウム137などによる慢性持続性低線量被ばくの問題が危惧される。現在、特に小児甲状腺がんが注目されている が、今後、青年から成人の甲状腺がんの増加や、他の乳がんや肺がんの発生頻度増加が懸念されている。》とか
主として20歳未満の人たちで、過剰な放射線を被ばくすると、10~100mSvの間で発がんが起こりうるというリスクを否定できません‥‥チェルノブイリの教訓を過去のものとすることなく、「転ばぬ先の杖」としての守りの科学の重要性を普段から認識する必要がある。
と事故後の発言とはおよそ正反対の発言をしていたのである。

3 山下アドバイザーの発言の違法性
県放射線健康リスク管理アドバイザーとは、本来、県民一人一人が被ばく問題について適切な選択をするために、個々の県民との関係で、放射線のリスクに関する情報を正しく伝える職務上の注意義務を負っている。しかるに、山下アドバイザーは、前述の通り、福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーに就任以来、この注意義務に違反し、放射線が健康に及ぼす影響について、100ミリシーベルト発言を初めとする明らかに不合理な科学的な知見を次から次へと県民に表明し、現実には、2013年4月24日に仙台高等裁判所が
チェルノブイリ原発事故後に児童に発症したとされる被害状況に鑑みれば、福島第一原発付近一帯で生活居住する人々とりわけ児童生徒の生命・身体・健康について由々しい事態の進行が懸念される
と認定したとおり、重大な被ばくにより深刻な健康被害の発生が懸念されるにもかかわらず、くり返し「健康には影響がない」と断言し、安全であるかのように県民を欺いたものであり、これを信用した多くの県民が被ばくについての警戒心を解いたため、多くの県民とりわけ子どもたちが無用な被ばくを強いられた。その結果、通常、百万人に1人と言われる小児甲状腺がんは、2017年12月末時点で、検査対象38万人の子どもたちのうち確定と疑いの両方で196人に達した。しかも甲状腺の二次検査で「経過観察」とされた子ども昨年10月時点で2881名はその後「悪性ないし悪性疑い」が発見されても、福島県はその症例数を公表していないという経過観察問題が判明した。
 そして、山下発言を原発事故前の彼の発言・論文と対比したとき両者が正反対の内容となっていることからも、山下発言は勘違いで済まされるものではなく、「福島県がどんな深刻な放射能汚染状況であろうとも住民に健康被害はなく、避難の必要がないことを訴えること、つまり集団避難によって福島県が崩壊する事態防止をひたすら配慮し、県民の人命・健康は犠牲にしても福島県の経済復興の妨げになる要素をすべて取り除くこと」という目的に向かって、その目的実現のために用意周到に計画され準備された発言であって、その結果、回復不可能または回復困難な健康被害を蒙った県民とりわけ子どもたちに対する人権侵害という点において、山下発言は前例をみないほど悪質であり、その違法性の程度は、その被害の桁違いの規模と組織的取り組みでなされた点において一般の刑事事件の枠組みには到底収まり切れるものではなく、1998年に「20世紀に何百万人もの子どもたち、女性及び男性が、人類の良心に深い衝撃を与えた想像を絶する行為の犠牲になったことに留意して 」設立された国際刑事裁判所の場で、住民に対する広範かつ組織的な犯罪として裁かれる「人道に関する罪」 にも匹敵するほど重大である。

この意味で、2012年9月、ノーベル平和賞を受賞した南アフリカのツツ元大主教が、
イラクで失われた人命への責任を負う者は、(注:国際刑事裁判所が設置された)ハーグで現在、責任を問われているアフリカやアジアの指導者らと同じ道を歩むべきだ
と述べ、ブレア元英首相とブッシュ前米大統領を2003年のイラク戦争開戦の刑事責任を問い、国際刑事裁判所に訴追するよう呼び掛けたが、これと同様に、山下発言も次のように呼びかけることが相応しいものである。
福島で子どもたちの健康を脅威にさらした責任を負う者は、ハーグで現在、責任を問われているアフリカやアジアの指導者らと同じ道を歩むべきだ」と。
                    ハーグの国際刑事裁判所

4、経過観察問題
2017年3月、NPO法人「3・11甲状腺がん子ども基金」の会見で、福島県は県民健康調査の甲状腺の二次検査で「経過観察」とされた子ども当時の2523人は、その後「悪性ないし悪性疑い」が発見されても、その数を公表していなかった事実、つまり福島県が公表した2017年12月末時点で196人の患者以外にも未公表の患者がいることが判明した。
そこで、原告らは準備書面(33)で、福島県に対し、速やかに、その症例数を明らかにするように求めた。すると、福島県は次の通り答弁した。
『経過観察』中に『悪性ないし悪性疑い』が発見された症例の数は把握していない 》(準備書面(10)
求釈明の対象を福島県立医大付属病院における症例に限定した場合であっても、被告福島県において本訴訟における求釈明に対する対応として調査し、明らかにする余地はない》(準備書面(11)3頁)
そこで、昨年8月、原告から福島県に対し
症例の数の把握について、被告福島県はこれを把握する義務があると考えているのか?
と質問したのに対し、福島県は事前協議の場で《把握する義務はない》と回答したが、直後の公開法廷で《把握する義務とは何を根拠とするのか明らかにしてほしい。その上で回答する》と変更したので、昨年10月6日、原告は、福島県に症例数を把握する義務があることの論拠を不作為不法行為の作為義務の面から示した準備書面(43)を提出した。なおかつ、同書面中で、白石草氏の報告によれば、既に、鈴木眞一らグループは県民健康調査の甲状腺検査に基つき、「悪性ないし悪性疑い」が発見された症例のデータベースを作成、患者の手術サンプル 等の「組織バンク」を保管している。そこに上記の未公表の症例のデータも保存・管理されているから、福島県は既に症例数を知っている、この知っている未公表の症例数の公表せよ、と迫った。
これに対し、福島県は準備書面(13)で、
福島県は、症例数を把握していない
と答弁し、その理由として、
福島県と鈴木眞一教授らの研究グループとは別の組織、別の主体であり、福島県はこの研究グループとは何の関わりもない。それゆえ、この研究グループがどんな社会的使命を持ち、どんな目的で、どんな研究をしているか、福島県は知るよしもない。だから、この研究グループが症例数を把握していたとしても、福島県はこれを知るよしもないから」
という旨を述べた。
 そこで、今回、原告は、これに対する反論書面(準備書面(52))を提出する。その骨子は以下の通りである。
もともと、福島県民の健康を守ることを使命とする福島県は県民の健康に重大な影響を及ぼす疾病について、県民に対し、その疾病に関する情報の収集と分析をした上で、この結果を公開するという説明責任を負っている。それゆえ、福島県はこの説明責任に基づき、上記の症例数を把握し、県民に報告する義務があるのは当然である。
なおかつ、福島県と県立医大と鈴木眞一らグループとの間には症例数の把握を示す、れっきとした記録が存在する。にもかかわらず、その記録を無視して専ら福島県の担当者の記憶に基づいて、
福島県は、症例数を把握していない
なととうそぶくのは、中央政府も地方政府もこぞって「国破れて記憶あり」という姿を如実に示すもの以外の何ものでもない。
 以上から明らかな通り、福島県は従前の主張を撤回し、速やかに、経過観察中の子どもでその後「悪性ないし悪性疑い」が発見された症例数を本法廷に提出すべきである。
(以上の詳細は経過観察問題(4)を参照)
以 上

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