2018年10月24日水曜日

【報告2】山下発言問題(続き):直接、山下俊一氏本人に法廷で尋問する必要性を明らかにした書面提出(2018.10.16)

【報告1】【経過観察問題(6)】経過観察問題の真相解明の意義を再確認した上で県立医大と鈴木眞一チームに症例数の回答を求める調査嘱託の申立を行ないました(2018.10.16)


 子ども脱被ばく裁判のメインテーマの1つ、山下発言問題(福島原発事故直後、長崎から福島入りして、福島県民とりわけ子どもたちに無用な被ばくを強いた重大な違法な発言をくり返した山下俊一長崎大医歯薬学総合研究科長(当時。以下、山下アドバイザーという)の発言問題) については、
これまでに、2015年9月7日付原告準備書面(5)第5で、その内容を具体的に主張し、これに対して、被告福島県が2016年2月12日付準備書面(6)第5で応答していました。

今回、この被告福島県の応答に対する 原告の反論として、

福島原発事故発生後の山下アドバイザーの発言には、科学的知見から明らかに逸脱したとしか思えない問題発言が数多く含まれており、被告福島県が「その発言の趣旨及び評価」を全面的に争う以上、その発言の真意、根拠について、本法廷において、直接、山下アドバイザー自身から確認し、「その発言の趣旨及び評価」を正しく判断する必要がある。》(準備書面(60)の3、結語) 

を具体的に主張、立証したものです。

なお、この書面と同時に、山下アドバイザーが2011年3月21日、福島市で行なった講演の動画を証拠として提出し(その一部は以下に公開)、
講演前半
                                   (画面をクリックすると動画サイトにジャンプ)


             講演後半(質疑応答。音声のみ)
質疑応答1


質疑応答2


質疑応答3


質疑応答4


10月16日の裁判当日、法廷で、この動画を上映したい旨の申し入れを行ない、裁判所の了解の下で、法廷で上映する準備を進めていたところ、当日、被告福島県から「待った」が入りました。原告が提出した動画が果して山下講演の真実の動画かチェックする必要があるという理由で(実は、福島県が公開した動画は、37分17秒で、前日のいわき市講演に関する山下アドバイザーの以下の感想部分が巧妙に削除されており、講演の書き換えがなされていたことが今回、判明した。自ら書き換えを行なった者として、原告もまた書き換えを行なうのではないかと疑心暗鬼になっている可能性がある)。


 昨日、いわき市に行ってきました。びっくりしました、いわき市に行ったら。途中、杉花粉がいっぱい飛んどる。これは原子力のありえんかなと思うくらい杉花粉だらけ。行ったら閑散として、福島市で見るようなガソリンスタンドの長い列がない。人がおらん。どうなっとるんだろうかと思って会場に入ると、ここ福島市民は、あるいはこの地区の、中通りと言うんでしょうか、は、みんな紳士淑女ですね。いわき市に入ったら、「おい、市長帰えれ!」「帰えるな!」とか、そんな罵声が飛ぶような所だったんです。これはまあ、どうして我々はつるし上げに来たのかと昨日いわき市で思いました。そうしたら、私の友人の鈴木先生が、「いや、これはもう、浜通りと中通りは人種が違うんだ」と言っておられましたので、少しは安心しましたが(笑)。

もともと原告提出の動画は被告福島県本人が撮影し、講演直後に県のホームページに公開(その後、削除)したもので、文字起しの文も付けて提出したのだから、本来であれば、数時間もあれば優にチェック済む筈なのに、なぜか、この日の動画上映の延期を求めてきました。

そのため、福島市の山下講演動画の法廷での上映は次回期日に延期となりました。 

なお、このたびの証拠収集にあたっては、被告福島県がHPから削除した山下講演動画(これは極めて公共的な情報です)を、動画或いは文字起し、或いは編集の上情報公開してくれた下記の市民の皆さんに心よりお礼申し上げます。
山下講演動画をアップした吾さん
山下講演の編集を掲載した「ひなたぼっこ&雑談日記」管理人のSOBAさん
山下講演全文の文字起こしを掲載した○○さん

下記書面の全文PDF->こちら

  ***************


原告  原告1-1ほか

被告  国ほか

準備書面(60)

――山下俊一アドバイザーの発言問題について――

20110 5
福島地方裁判所民事部 御中        

原告ら訴訟代理人   柳 原  敏 夫
ほか18名  
 
 本書面は、福島原発事故直後、長崎から福島入りして、福島県民とりわけ子どもたちに無用な被ばくを強いた重大な違法な発言をくり返した山下俊一長崎大医歯薬学総合研究科長(当時。以下、山下アドバイザーという)の発言問題(訴状請求原因第4)を具体的に主張した2015年9月7日付原告準備書面(5)第5に対して認否をした被告福島県の2016年2月12日付準備書面(6)第5に対する原告の反論である。

目 次

 被告福島県の準備書面(6)第5によれば、原告が主張する山下発言の内容は概ね認め、争うのは、「その発言の趣旨及び評価である」。

原告は被告福島県の上記認否の後半に対し全面的に争う。そして、「その発言の趣旨及び評価」について、原告は、「100ミリシーベルトを超える放射線を浴びることはないから健康には影響がない」(以下、「100ミリシーベルト発言」という。)という山下アドバイザーの一連の「100ミリシーベルト発言」がいかに非科学的なものであるかを次回、詳細に明らかにするが、ここでは、非科学的という点ではとりわけ抜きん出ている、「100マイクロシーベルト/h発言」「1ミリシーベルトで1個の遺伝子の損傷」「ニコニコ発言」「原発事故前の発言との矛盾」について問題点を指摘する。

(1)、100マイクロシーベルト/h発言

 毎時100マイクロシーベルトとは年間876ミリシーベルトに相当する。これはICRPの評価(ICRP2007年勧告〔丙B3〕19頁(73)~21頁参照[1])によれば、がん死のリスクが8.76%になる、つまり福島県民200万人が876ミリシーベルト被ばくすると17万5200人がガン死する、という桁違いな危険性を示す値である。
 ところが、山下アドバイザーは、2011年3月、福島入りした直後から、以下の通り、この「100マイクロシーベルト/hなら心配ない」という発言を彼自身の持論としてくり返している。
 尤も、被告福島市の準備書面(6)9頁は、福島市の講演のあと、この発言は「10マイクロシーベルト/hを越さなければ」の誤りだったと訂正する記事を福島県のホームページに掲載したと弁解しているが、事実は、それ以前の下記①(福島市講演の前日のいわき市講演)でも、それ以後の下記④(飯館村の非公開のセミナーで)でも、100マイクロシーベルト/h発言と同趣旨の発言をくり返している。のみならず、下記①(前日のいわき市講演)で「もう、5とか、10とか、20とかいうレベルで外に出ていいかどうかということは明確です。」と断言しており、「10マイクロシーベルト/hを越さなければ」の誤りでないことは明白である。さらに福島市の講演では、100マイクロシーベルト/h発言に際して、「私がいつも言うように」と前置きしており、すなわち100マイクロシーベルト/h発言は山下アドバイザー自身が普段から確信を抱いている持論なのである。そこで、いったい何を根拠にして、この発言がなされたのか、本法廷において、直接、山下アドバイザー自身から確認する必要がある。

①.3月20日いわき市講演の質疑応答(特集「告発された医師」〔甲C9〕19頁右段下から18行目以下)
質問者:先生にイエスかノーで答えていただきたいことが1つあるんですが、明日から天気のいい日は気持ちよく外を散歩していいということでしょうか。
山下:イエスかノーかっていうのは難しいですが、99.9パーセント、イエスです。理由は、これからマイクロシーベルトという単位で出ます。それをよく注目してみてください。100マイクロシーベルトまでならなければまったく心配いりませんので、どうぞ胸を張って歩いてください。

②.3月21日福島市講演の質疑応答(回答のみ今般提出の動画〔甲C88〕31分16秒~)
質問者:私ども、今日聞いた中では非常に安心しているんですが、ただ、私ども年寄りを預っている事業所を持っている者、そして職員の家族を預っている私なものですから、職員にもう少し、こうしてこうすれば安心ですよと言える言葉で、もう少しわかりやすく、これとこれをすれば安心ですよという言葉があれば教えて頂きたいと思っております。
山下:科学的に言うと、環境の汚染の濃度、マイクロシーベルトが、100マイクロシーベルト/hを超さなければ、全く健康に影響及ぼしません。ですから、もう、5とか、10とか、20とかいうレベルで外に出ていいかどうかということは明確です。昨日もいわき市で答えられました。「いま、いわき市で外で遊んでいいですか」「どんどん遊んでいい」と答えました。福島も同じです。心配することはありません。是非、そのようにお伝えください。

③.3月21日福島市講演の質疑応答
質問者:市内の中学校の教員です。具体的に、生徒が外で体育の授業をしている、もしくは部活動をしている、駅伝の練習をしている、そういった時にモニタリングの結果が出た際、例えば、屋内に「念のため」というような文字が、テロップが入る訳なんですが、屋内にという指示を出すとしたら、そういった基準というのは、教育委員会の方でも設定すべきでしょうか。
山下:仰る通りです。子供は守らなければなりません。20歳以上は放ったらかしておいて大丈夫です。そういう意味では、まさに仰った教育委員会はその義務があると思います。
質問者:だとしたら、その数値の目安としては、
山下:私がいつも言うように100マイクロシーベルト/hというのは、それ以上になると屋内退避すべきだと思います。

④.4月1日飯館村で、村議会議員と村職員対象の非公開セミナー(「飯館村 山下教授『洗脳の全容』」〔甲C89〕3頁
質問者32番(注:飯舘村飯樋地区)の観測点の数値が高い。MAX140μSv/hで、現在でも38μSv/hである。今までの値で足し算をしていくと、1mSvには20日くらいで達してしまう。大丈夫なのか。
山下:福島で315日に20μSv/hであった。先程話したように人間は新陳代謝によって新しく細胞を作り出しているのでμSv/h(マイクロのレベル)であれば全く問題ない。10μSv/hまで下がればより安心である。 ‥‥

(2)、「1ミリシーベルトで1個の遺伝子の損傷」発言

ア、「損傷」の意義
 一般に放射線が人体に与える致傷の影響を表す用語として、「障害」と「損傷」が使われるが、このうち「損傷」はミトコンドリアなど細胞以下の細胞小器官や分子レベルに対する放射線の影響を論じる際に用いられるとされる[2]。山下アドバイザーの発言は細胞内の遺伝子(DNA)が放射線により「損傷」することを話題にしている。
イ、「損傷」の正体は電離
 「損傷」とは、放射線が人体に当たったときに引き起こされる「電離」作用をいう。すわなち放射線が身体に当たるとき、身体組織の原子に所属する電子が原子の外に叩き出されてしまう現象を言う。電離作用の結果、電子を叩き出された身体組織の分子は以下の図の通り、イオン化するか、または分子切断(結合切断)される。


(落合栄一郎氏提供)

ウ、「年間1ミリシーベルト」で放出される放射線の数
 人が年間1ミリシーベルトの放射線を浴びる時、人はどれくらいの数の放射線を浴びるか。以下の計算により、セシウム137では年間で約600億本、毎秒に直すと、毎秒約1万本の放射線を1年間継続して浴びることを意味する。
 1ミリシーベルトをエネルギー(単位はジュール〔J〕)に換算すると、1mSv=1mGy=1mJ/kg
 いま、60kgの人なら、1ミリシーベルトは60mJのエネルギーとなる。ジュールを電子ボルト〔eV〕に換算すると、
60mJ=60/1.602×10-10 MeV
 いま、セシウム137を取り上げると、以下の崩壊過程の中で大部分を占める、ベータ線を出してセシウム137からバリウム137になり、さらにガンマ線を出してバリウム137からバリウム136になるときの放射線の数を計算すると、以下の通りとなる。



1本のベータ線、ガンマ線のエネルギーはそれぞれ0.512MeV、0.6617MeVだから、1ミリシーベルトのエネルギーはベータ線とガンマ線のエネルギーの合計の何セット分に相当するかは以下の割り算で求められる。
60/1.602×10-10 ÷(0.512+0.6617)=3.19‥‥×1011 
ベータ線またはガンマ線だけだと約3000億本。ベータ線とガンマ線の合計で約6000億本。
つまり年間1ミリシーベルトを浴びるとは年間で約6000億本の放射線を浴びることを意味する。これを毎秒に換算すると約2万本[3]。つまり年1ミリシーベルトを浴びるとは毎秒約2万本の放射線を浴びる状態が1年間継続することを意味する。尤も、以上のような概算値の計算(オーダーエスチメーション)の意義は桁数の大きさを判断するためのものであり、桁数の先にくる数値は厳密な意味を持たない。ここでは万か千かいう桁数が大切な意味を持つ。そこで、結論として、「毎秒約1万本」と述べたものである。

エ、1本の放射線が引き起こす電離の数
 次に、セシウム137で年間で浴びる約6000億本の放射線、そのうちたった1本の放射線だけでどれだけの数の電離を引き起こすかを計算する[4]。ここではベータ線、ガンマ線だけでなく、アルファ線についても明らかにする(※)

(※)長崎大の七條和子氏らは、2009年、プルトニウムによるアルファ線の内部被ばくの写真撮影に世界で初めて成功した(その一例が以下の写真)。これまで、長崎の原爆爆心地付近では強烈な上昇気流のため、プルトニウムが存在していないというのが常識だったが、この研究はその常識を覆し、アルファ線の内部被ばくが荒唐無稽の話でないことを証明した。
腎臓中のプルトニウム飛跡

一般論として、1本の放射線の電離の数は、放射線のエネルギーを1個の電離に必要な平均電離エネルギーで割れば求められる。今、放射線が体内中で1個の電離に必要なエネルギーを平均で40eVと仮定すると、 放射線の種類に応じて電離の数は次の通りである。
①.アルファ線はおよそ10万個。その計算方法は、ウランのアルファ線のエネルギー4MeV(=4×106eV)を平均電離エネルギー40eVで割る、次の割り算で計算する。
×10 ÷40=100,000
 つまり、アルファ線は身体中で40μm程度で止まるが、その間におよそ10万個の電離=人体の損傷を行う。
②.ベータ線は最大2万5000個。ただし、ベータ線のエネルギーは一定ではないので、今、最大値1MeVについて計算すると、その計算方法は、1MeV(=1×10eV)を平均電離エネルギー40eVで割る、次の割り算で計算する。
×10 ÷40=25,000
 つまり、ベータ線は身体中で5mm程度で止まるが、その間に最大で2万5000個の電離=人体の損傷を行う。
③.ガンマ線が電離作用を行うのは、ガンマ線そのものではなく、ガンマ線により二次電子を叩き出し、この二次電子が電離を行う。ガンマ線のエネルギーがおおよそ300keV以下では、叩き出す二次電子の数が1個の光電効果が、それ以上では叩き出す二次電子の数が複数個のコンプトン効果が主流となる(以下の図参照)。




ⓐ.光電効果の場合、最大7500個。ただし、ガンマ線のエネルギーは一定ではないので、今、光電効果が発生する最大値300keVについて計算すると、その計算方法は、ガンマ線のエネルギー300keV(=100×10eV)を平均電離エネルギー40eVで割る、次の割り算で計算する。
300×10 ÷40=7,500
.コンプトン効果の場合、およそ2万5000個。今、ガンマ線のエネルギーを1MeVとして計算すると、その計算方法は、ガンマ線のエネルギー1MeV(=1×10eV)を平均電離エネルギー40eVで割る、次の割り算で計算する。
×10 ÷40=25,000
 ただし、ガンマ線は身体内で発射されてもその相当量は身体の外まで飛び出すため、電離の場所は身体内と外の両方となる。
以上によれば、セシウム137の場合、年間1ミリシーベルトを浴びると、年間で3000億本ずつベータ線とガンマ線を浴び、その1本ごとがベータ線では最大2万5000個の電離=人体の損傷を行ない、ガンマ線では光電効果の場合、最大で7500個、コンプトン効果の場合、およそ2万5000個の電離を行なう。

オ、「遺伝子(DNA)の損傷の数」
遺伝子(DNA)が細胞内で占める割合は重量比で0.3%とされている[5]。いま単純化して、人体の全細胞に1本のベータ線による2万5000万個の電離が発生したと仮定した場合、人体の全遺伝子(DNA)に発生する電離の数は2万5000×0.003=75個となる。すわなちセシウム137のベータ線で年間1ミリシーベルトを浴びた場合、1本のベータ線で、人体の全遺伝子に発生する電離の数は75個である。セシウム137の場合、年間1ミリシーベルトで年間3000億本のベータ線を浴びるから、年間3000億本のベータ線で人体の全遺伝子に発生する電離の数は、75×3000億=22兆5000億個となる。

カ、遺伝子以外の分子の損傷の数
 のみならず、今日において、放射線が人体に与える悪影響は遺伝子(DNA)への損傷の場合に限られず、それ以外のタンパク質、細胞膜などの生体膜、水への電離=損傷が人体の生命活動にとって重大な異変をもたらすことが明らかにされている(落合栄一郎「放射能と人体」〔甲C90の2〕150~160頁参照)。タンパク質、水が細胞内で占める割合は重量比で18%、70%とされているから、そこで、上記オと同様、単純化して人体の全細胞に1本のベータ線による2万5000個の電離が発生したと仮定した場合、人体の全タンパク質に発生する電離の数は2万5000×0.18=4500個、人体の全ての水に発生する電離の数は2万5000×0.7=1万7500個となる。たった1本のベータ線の内部被ばくにより、これだけの莫大な数の電離=人体の損傷が(セシウム137の場合、年1ミリシーベルトで年間3000億本のベータ線を浴びるから、電離の数も上記の3000億倍となる)人体の生命活動に様々な異変をもたらすおそれがあることを念頭に置く必要がある。
以上が人が年間1ミリシーベルトの放射線を浴びることの科学的な意味である。ところが、山下アドバイザーは、人が年間1ミリシーベルトの放射線を浴びる場合、放射線による電離=人体の損傷について、次のように発言した。いったい何を根拠にして、この発言がなされたのか、本法廷において、直接、山下アドバイザー自身から確認する必要がある。
①.3月21日福島市講演(今般提出の動画〔甲C88〕11分40秒~)
「放射線はエネルギーとして、1つ覚えてください。1ミリシーベルトの放射線を浴びると皆様方の細胞の遺伝子の1個に傷が付きます。簡単!100 ミリシーベルト浴びると100個傷が付きます。これもわかる。じゃあ、浴びた線量に応じて傷が増える。これもわかる、みんな一様に遺伝子に傷が付きます。 しかし、我々は生きてます。生きてる細胞はその遺伝子の傷を治します。
 いいですか。1ミリシーベルト浴びた。でも翌日は治ってる。これが人間の身体です。 100ミリシーベルト浴びた。99個うまく治した。でも、1個間違って治したかもしれない。この細胞が何十年も経って増えて来て、ガンの芽になるという事 を怖がって、いま皆さんが議論している事を健康影響というふうに話をします。まさにこれは確率論です。事実は1ミリシーベルト浴びると1個の遺伝子に傷が 付く、100ミリシーベルト浴びると100個付く。1回にですよ。じゃあ、今問題になっている10マイクロシーベルト、50マイクロシーベルトという値 は、実は傷が付いたか付かないかわからん。付かんのです。ここがミソです。」

②.4月1日飯館村で、村議会議員と村職員対象の非公開セミナー(「飯館村 山下教授『洗脳の全容』」〔甲C89〕2頁
「小さな量の被ばくは、全く健康被害はありません。人間は代謝しているからです。1mSv/h1回浴びると1個の細胞が傷つきます。詳しく言うと1つのDNA(遺伝子)が傷つくのです。しかし、人間はそれを直すことが出来る仕組みを持っています。」
100mSv/hの放射線を1回浴びると100個の細胞が傷つきます。1個くらい直すときに間違えるときがある。1000mSv/hだと1000個の細胞が傷つく。そうすると3個位間違えてしまう。発ガン性のリスクが高くなります。しかし、そのガンになるリスクは決して高いものではありません。たばこを吸う方がリスクが高いのです。 今の濃度であれば、放射能に汚染された水や食べものを1か月くらい食べたり、飲んだりしても健康には全く影響はありません。」

(3)、「ニコニコ発言」

 人体が放射線を浴びた場合、人体が放射線による電離=損傷を直接に防ぐ防御機構は人体に存在しない。これは異論がない科学的事実である。人体にできることは既に電離=損傷し、傷ついた分子を、事後に修復するか、それが不可能な時にその細胞を廃棄する(アポトーシス)か、フリーラジカルなどの放射線による毒化合物の作用をなくすか和らげることのみである(落合栄一郎「放射能と人体」〔甲C90の3〕195頁)。それゆえ、ニコニコ笑っていれば放射能の電離=損傷は起こらない、というのはイグノーベル賞すら相手にしない前代未聞のデタラメである。
ところが、山下アドバイザーは、放射線による影響(電離=人体の損傷)について、次のように発言した。いったい何を根拠にして、こんな前代未聞の発言がなされたのか、本法廷において、直接、山下アドバイザー自身から確認する必要がある。
①.3月21日福島市講演(今般提出の動画〔甲C88〕30分2秒~)
放射線の影響は、実はニコニコ笑ってる人には来ません。クヨクヨしてる人に来ます。これは明確な動物実験でわかっています。」
 

(4)、福島原発事故以前の発言との矛盾

 山下アドバイザーは福島原発事故以前には以下のような発言をしており(下線は原告代理人による)、これらと事故直後の福島県で行なった発言、例えば、
「何度もお話しますように100ミリシーベルト以下では明らかに発ガンリスクは起こりません。」(5月3日二本松市講演。特集「告発された医師」〔甲C9〕23頁右段下から18行目以下
と比較した時、その正反対とも言うべき矛盾した内容に、果して同一人物の発言なのかといぶかざるを得ない程である。そこで、いったい何を根拠にして、事故前と矛盾する発言がなされたのか、本法廷において、直接、山下アドバイザー自身から確認する必要がある。
①.「被爆体験を踏まえた我が国の役割」3頁(2000年)(甲C33)
 4.今後の展望
チェルノブイリ周辺住民の事故による直接外部被ばく線量は低く、白血病などの血液障害は発生していないが、放射線降下物の影響により、放射性ヨードなど による急性内部被ばくや、半減期の長いセシウム137などによる慢性持続性低線量被ばくの問題が危惧される。現在、特に小児甲状腺がんが注目されている が、今後、青年から成人の甲状腺がんの増加や、他の乳がんや肺がんの発生頻度増加が懸念されている。

②.「放射線の光と影」543頁左段(2009年)(甲C34)
主として20歳未満の人たちで、過剰な放射線を被ばくすると、10~100mSvの間で発がんが起こりうるというリスクを否定できません‥‥チェルノブイリの教訓を過去のものとすることなく、「転ばぬ先の杖」としての守りの科学の重要性を普段から認識する必要がある。

③.「放射能から子どもの未来を守る」9~10頁
【児玉龍彦東京大学アイソトープ総合センター長(以下、児玉教授という)による原発事故以前の山下アドバイザー発言の紹介】
山下氏は、福島原発事故以前は、学会で、放射能を使うPETやCT検査の医療被曝については、2ミリシーベルト程度の自然放射線と同じレベルについても、「医療被曝の増加が懸念される」と述べ[6]、学問的には危険性を認め対応を勧めている。

3、結語

以上から明らかな通り、福島原発事故発生後の山下アドバイザーの発言には、科学的知見から明らかに逸脱したとしか思えない問題発言が数多く含まれており、被告福島県が「その発言の趣旨及び評価」を全面的に争う以上、その発言の真意、根拠について、本法廷において、直接、山下アドバイザー自身から確認し、「その発言の趣旨及び評価」を正しく判断する必要がある。

4、誤記の訂正 

 2015年9月7日付原告準備書面(5)第5に以下の誤記があったので、訂正する(下線部分が訂正箇所)。なお、2番目(40頁13行目)の訂正は、山下アドバイザーの講演動画[7]を再生して、彼の発言内容を確認したものである。

箇所
誤り
正解
39頁4行目
表の1列目

②.同上
②.2011年3月20日いわき市講演
40頁13
行目
表の2列目

何度もお話しますように100ミリシーベルト以下では明らか発ガンリスクは起こりません。
何度もお話しますように100ミリシーベルト以下では明らか発ガンリスクは起こりません。

以 上



[1]低線量で健康被害の影響が低くなる程度を示す値として線量・線量率効果係数(DDREF)が用いられ、DDREF2とは、低線量のがん死のリスク係数(単位線量当たりのリスク)が高線量での値の2分の1であることを示す。ICRP2007年勧告は、低線量の放射線被ばくのリスクをDDREF2とし、がん死のリスク係数を1シーベル当たり5%とした。ところで、年間876ミリシーベルトは低線量に該当しないからDDREF2は使わず、その結果、リスク係数は1シーベル当たり(上記の2倍の)10%となる。従って、0.876シーベルトならリスク係数は8.76%となる。
[2] 佐藤満彦「“放射能”は怖いのか――放射線生物学の基礎」(文春新書)187頁
[3] 計算式:2×3.19‥‥×1011÷(365×24×60×60)

[4]以下の計算式はいずれも、札幌地裁平成29年(行ウ)第2号労働者災害補償不支給決定取消請求事件に書証として提出された、矢ヶ崎克馬琉球大名誉教授の平成30年7月17日作成の意見書の記述を参考にしたものである。
[5]落合栄一郎「放射能と人体」〔甲C90の1〕143頁2~4行目。
[6] 「正しく怖がる放射能の話」(長崎文献社)、「長崎醫學會雑誌」(長崎大学) 81特集号
[7] OurPlanet-TV提供の動画http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1037の前半7分30秒)

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