被告福島県と甲状腺検査の経過観察問題(2018.1.28)
◎【速報】【経過観察問題(4)】国破れて記憶あり、で症例数を隠ぺいする被告福島県にはこれを開示する説明責任がある(2018.4.13)
◎【速報】【経過観察問題(5)】「被告福島県に経過観察中に発症した数を開示する説明責任がある」か否かに答弁しないという答弁をした福島県(2018.7.10)
前回7月10日の裁判で、経過観察問題について、被告福島県は、
「被告福島県に経過観察中に発症した数を開示する説明責任がある」か否かに答弁せず、文句があるなら、別途、裁判でも何でもやってくれ、という全面的開き直りの答弁に出ました(詳細は->こちら)。
この開き直りに対し、今回10月16日の裁判で、原告は裁判所に対して、裁判所から、福島県立医大と同大学の鈴木眞一チームに対して症例数を回答するように求める手続き(調査嘱託)の申し立てをしました。
この申立に対し、裁判当日、裁判所から意見を求められた被告福島県は「しかるべき」と、裁判所の判断にお任せしますという回答をしました。それを聞いてビックリしたのが被告国。国から、これに対する意見を速やかに出したいと言い出しました。
以下、原告の申立書です。ー>全文のPDF
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平成26年(行ウ)第8号ほか
原告 原告1-1ほか
被告 国ほか
準備書面(59)
――いわゆる経過観察問題(続き3)について――
2018年10月 5日
福島地方裁判所民事部 御中
原告ら訴訟代理人 柳 原 敏 夫
同 光 前 幸 一
ほか17名
本書面は、前回、被告福島県から提出の準備書面(15)に対する原告の反論である。なお、被告福島県の県民健康調査の甲状腺検査における小児甲状腺がんの「悪性ないし悪性疑い」の症例数を以下、本件症例数という。
目 次
1、小児甲状腺がんの原因について
(1)、チェルノブイリ事故
小児甲状腺がんはチェルノブイリ事故で被ばくによる住民の健康被害としてUNSCEARなど国際的にも認められた唯一の病気である。当初、この小児甲状腺がんは放射性ヨウ素によるものと考えられてきた。しかるに、その後、放射性ヨウ素では説明が困難な現象が現われてきた。その1つがウクライナにおけるチェルノブイリ事故当時18歳未満の子どもたちの甲状腺がんの罹患率が以下の通り、事故後25年経過後も上昇の一途を辿っている事実である(「低線量汚染地域からの報告」〔甲B137〕82頁には2010年が600症例、2011年が700症例と記載)。
「低線量汚染地域からの報告」〔甲B137〕81頁より
すなわち、チェルノブイリから放出された放射性ヨウ素(その殆どがヨウ素131)は半減期約8日で、事故から2ヵ月後に約128分の1に減少し、それ以後は甲状腺に影響を与えないとされる。しかし、甲状腺がんの罹患率は事故後25年間、上昇の一途を辿り、放射能の影響が及んでいることが否定できない。つまり、同じチェルノブイリ事故で汚染された地帯に住んでいながら、或る子どもたちは5年後の1990年に発症し、なぜ別の子どもたち700人は25年も経過した2011年に発症したのか。放射性ヨウ素では説明困難なこの現象を解き明かす証拠がベラルーシの医師ユーリ・バンダジェフスキーによってもたされた。バンダジェフスキーはセシウム137の人体への影響を明らかにするために、被曝して死亡した患者の病理解剖と臓器別の放射線測定と取組み、以下の図の結果を報告した(〔甲B137〕15頁図⑦。右が子ども、左が大人の値)。
これは、「内部被ばくで身体中に入った放射性物質が、どこに運ばれ“定着”したか?」という疑問に回答を与える重要な証拠である。これによれば、半減期約30年のセシウム137が子どもの甲状腺に飛び抜けて蓄積されており、ここから大量のセシウム137が子どもの甲状腺を長期間にわたって内部被ばくし続けている事実が明らかとなったからである。
1997年に死亡した成人と子どもの臓器別放射性元素濃度(ユーリ・バンダジェフスキー「放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響」〔甲B137〕15頁)
(2)、福島原発事故
以上の通り、バンダジェフスキーの報告により、チェルノブイリ事故による小児甲状腺がんの罹患率の上昇はヨウ素131だけでなく、セシウム137によるものである可能性が高いことが示された。従って、福島原発事故でも同様に、セシウム137による小児甲状腺がんの発症の可能性がある。そうだとすると、半減期約30年のセシウム137による小児甲状腺がん発症の問題は、ヨウ素131のように福島原発事故直後に限定して被ばくする問題ではなく、事故から7年以上経過した現時点において、今後も長期にわたって被ばくし続ける、重大で深刻な健康被害をもたらす問題にほかならない。
2、本訴における本件症例数の重要性と公共性について
(1)、行政訴訟
県内子ども原告らの請求の趣旨は、被ばくによる生命、身体及び健康への侵害の危険のない安全な環境(地域)で教育の実施(作為及び不作為)を求める給付請求、及び上述の安全な環境(地域)で教育を受ける権利の確認を求める確認請求であり(以下、これらを総称して、本請求という。平成28年2月10日付訴えの追加的変更申立書参照)、本請求は言うまでもなく、「現時点において」被ばくによる生命、身体及び健康への侵害の危険のない安全な環境の下で教育を受ける権利の保障を求めるものに基づくものである。
従って、「現時点における、被ばくによる生命、身体及び健康への侵害の危険を裏付ける情報」こそ、本請求の成否を判断する上で最も重要な事実である。この点、小児甲状腺がんはチェルノブイリ事故で被ばくによる住民の健康被害として認められた病気であり、その原因としてヨウ素131だけでなく、半減期約30年のセシウム137によるものである可能性が高いことは1で前述した通りである。従って、被告福島県が実施している県民健康調査の甲状腺検査における小児甲状腺がんの「悪性ないし悪性疑い」の症例数(本件症例数)は「現時点における、被ばくによる生命、身体及び健康への侵害の危険を裏付ける最も重要な情報」である。そして、言うまでもなく本件症例数は個人情報は含んでいないから、この情報は被ばくによる県民の健康被害を評価する上で最も重要な、それゆえ、県民に対していち早く開示されなければならない公共性の最も高い情報にほかならない。
(2)、国家賠償訴訟
次に、福島原発事故当時に福島県内で居住していた子どもたちのうち、何人に小児甲状腺がんが発症しているかは、国賠訴訟の関係でも、重要な事実であることを指摘しなければならない。国賠訴訟の原告らは、子どもたちに安定ヨウ素剤を服用させる機会を与えられることもなく、被告国や被告福島県の無為無策によって無用な被ばくをさせられてしまったことに心を痛めている。無用な被ばくによる健康影響は、チェルノブイリ原発事故の例をみても、小児甲状腺がんに限られるものではないが、それでも、福島県全体において、被ばくを原因とする小児甲状腺がんが発症しているか否かは、その精神的苦痛に客観的根拠があるか否かの重要なメルクマールである。被ばくを原因とする小児甲状腺がんの発症が否定できるのであれば、原告らの精神的苦痛はひとまず杞憂であったとすますことができるかもしれないが、これが否定できないのであれば、自分の子どもが小児甲状腺がんその他被ばくを原因とする様々な疾患にり患するかもしれないという精神的苦痛を抱いていることについて、具体的な根拠があることになる。したがって、本件症例数は、本件国賠訴訟においても、極めて重要な事実なのである。
3、経過観察問題の発生
ところが、原告が準備書面(33)以来くり返し指摘して来た通り、被告福島県は、福島県は県民健康調査の甲状腺検査の二次検査で「経過観察」とされた子ども(2017年10月時点で単純合計で2881人 だったのが、2018年6月末時点では3316人に増加している)は、その後「悪性ないし悪性疑い」が発見されても、その症例数(以下、経過観察関連発症数という)を公表してこなかった。のみならず、この未公表の事実について、原告より、福島県が負っている実体法及び訴訟法上の説明責任を果たし、症例数を公表するようにと迫ったが(原告準備書面(52)等参照)、いずれの説明責任も果す積りは全くないという全面的開き直りの態度に出て(被告福島県準備書面(15))、今日現在まで、執拗なまでに頑なに経過観察関連発症数の公表を拒み続けている。
その結果、本件症例数は本請求の「現時点における、被ばくによる生命、身体及び健康への侵害の危険」及び「無用な被ばくによる健康被害に対して原告らが抱く精神的苦痛」を裏付ける最も重要な事実であり、最も公共性の高い事実であるところ、その本件症例数のうちかなりの割合を占める可能性がある経過観察関連発症数が我々にとって未公表のままである。これは本来、「被ばくによる生命、身体及び健康への侵害の危険」及び「無用な被ばくによる健康被害に対して原告らが抱く精神的苦痛」を裏付ける最も重要な事実であり、最も公共性の高い事実について県民に重大な説明責任を負う被告福島県がこれを実行しない、不作為による隠蔽行為と言わざるを得ない。
4、正確な本件症例数に基づく統計的分析の意義
のみならず、これまで被告福島県が公表してきた本件症例数(正確には経過観察関連発症数を除いた残り)では、発症率が低いこと及び公開された最も詳細なデータが個人レベルではなく、59の市町村レベルにとどまっていたこと(それどころか、2017年6月からは市町村レベルすらやめて、4つの地域レベルの公表に逆行した)もあって、統計的な分析をする上で必ずしも十分なものではなかった。しかし、経過観察関連発症数も含めた正確な本件症例数が明らかにされた場合には(なおかつ、「米国核関連3施設従業員データ」と同様、匿名化した個人レベルのデータが公開され、利用されるようになればなおさらのこと)、統計的な分析の上でより精度があがり、被ばくとの関連性がより明らかにされることが期待できる。原告は、正確な本件症例数に基づく統計的分析によって、福島県における被ばくと健康被害(小児甲状腺がん)との関連性を証明にしたいと考えている。それゆえ、経過観察関連発症数を公表しない被告福島県の態度は、原告の上記証明活動に対する妨害行為と言わざるを得ない。
5、調査嘱託の申立
以上から、原告は、正確な本件症例数を得て、それに基づく統計的分析を通じて、被ばくと健康被害(小児甲状腺がん)との関連性を証明するために、今般、以下の相手に対して、別途申立書のとおり、経過観察関連発症数に関する調査嘱託の申立を行なう。
①.
被告福島県から委託を受けて県民健康調査を実施する福島県立医科大学
②.
県民健康調査の甲状腺検査に基づいて「悪性ないし悪性疑い」が発見された症例のデータベースの作成等のため、同大学に研究費の申請をして許可を得て研究を実施した鈴木眞一チーム
なお、上記②の鈴木眞一チームは法人格を持つ団体ではないが、以下の理由から調査の嘱託先である「団体」に該当する。
もともと調査の嘱託は、官庁その他の団体に保存されている記録等が事実の認定の重要な資料となることが多いことに基づき認められた証拠調べの方法であり、その要件として嘱託先を団体に限定し、個人を除外した趣旨は裁判所からの調査の嘱託に応えて客観性の高い資料を提供すること(その前提として、資料を整然と保管すること)は、個人には負担が重すぎると考えたからである。従って、県民健康調査の甲状腺検査において中心的、主導的な立場で関与してきた鈴木眞一福島県立医科大学教授を代表とする研究チームが、同研究チームが実施した小児甲状腺がんの症例データベースの作成等の研究に基づき経過観察関連発症数を提供することは、一方で同研究チームに過重な負担を負わせるものでは全くなく、他方で同研究チームが経過観察関連発症数について最も正確な事実を提供する立場にあることから、調査の嘱託先である「団体」に該当することが明らかである。
以 上
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