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2026年6月1日月曜日

【振り返り】子ども脱被ばく裁判(続き3):行政裁量論――拒絶法学 の金字塔と君子豹変す――(25.8.31)

行政裁量論――拒絶法学[1]の金字塔と君子豹変す――

1、二審のメインテーマ

 拒絶法学の金字塔「行政の処置はいずれも適切な裁量の範囲内であり、裁量権の逸脱濫用はない」という一審判決の決めゼリフを受けて、二審のメインテーマは行政裁量論となりました。当初、二審の裁判長は行政裁量論に関する私たちの主張に好意的で、一審判決が不意打ちだった分、この論点でとことん議論しようという姿勢を示しました。しかし、のちに裁判長の君子豹変によりこの検討は挫折してしまいました。

2、裁量判断とは

行政の仕事は国会が制定した法律を執行することです。行政が法律を執行する過程で執行者に自己決定の余地を与えられている場合を行政裁量といいます。本裁判で問題となった基礎自治体の教育委員が小中学校の保健安全を具体化する措置、国のSPEEDI情報等の提供、安定ヨウ素剤投与指標を定めること、安定ヨウ素剤の配布、いわゆる20mSv/年の文科省通知、福島県の学校再開の判断、国の集団避難の処置、山下俊一の講演はいずれも執行者に自己決定の余地を与えられている裁量行為だとして、それが「法律の許容する範囲」を超えた違法な裁量行為ではないかどうかが問われたのです。

本件で行政の裁量判断を司法が「正しく」審査するためには、通常の審査にはない「前例のない新しい」困難がありました。それが「前例のない法の欠缺」状態の発生でした。

3、「前例のない法の欠缺」の補充と司法の審査

 ○、法の欠缺で前述した通り、本件は「前例のない法の欠缺」状態が発生しました。そのため、この空前の状況のもとで国や自治体は「法律の許容する範囲」で適法な裁量判断をする必要がありました。それは通常の裁量判断にはない困難をもたらしました。なぜなら「前例のない法の欠缺」状態が発生したために、「法律の許容する範囲」もまた穴(欠缺)状態になったからです。この問題を解決するためには欠けている法律を補充する必要がありました。「欠缺の補充」です。しかもただ補充すればいいのではなく、「正しく」補充する必要がありました(「正しい」補充のやり方は○、法の欠缺参照)。以上の作業は行政の裁量判断の場合だけでなく、司法が裁量判断を審査する場合も同様です。さらに司法は、以上の作業を済ませたのち、次に本件の裁量判断について「正しい」審査を行なうために「判断過程審査[2]」というやり方を実行する必要がありました。

4、「判断過程審査」(一般論)

(1)、それは行政の裁量判断の「判断過程」の各局面ごとに①どのような裁量があるか、②どのような過誤があるのかを個別具体的に明らかにして審査するものです。

(2)「判断過程」の各局面ごとの審査
①.当該案件をいかに処置すべきかを検討・判断するために、当該案件の構成要素の事実を調査に基づき認定。この局面で、調査義務違反、経験則違反が問題となります。

②.当該案件に適用すべき基準(具体的裁量基準)の認定。基準の正しい認定の過誤が問題となります。

③.①で得られた事実を②で得られた基準に当てはめて処置を決定。ここで、()、事実の基準への適用。基準の正しい適用の過誤が問題となる。次に()、いかなる処置をするかの選択(処置の選択)。処置の正しい選択の過誤が問題となります。

5、「判断過程審査」(子ども裁判)

一例として、以下の表は311後の学校教育現場での具体的な安全確保義務の実行について、基礎自治体の「判断過程」の各局面ごとに検討した結果を一覧表にしたものです。

 

各局面

判断過程の過誤

(具体論)

本件の検討
(学校教育現場での安全確保義務)

事実認定の過誤

(a)、調査義務違反
事実認定に必要な調査を尽くしていない場合=裁量基準の構成要素に当てはめる事実を認定するために必要な証拠(資料)を収集したか。

調査を尽くしていなかった。
その1つが「法の欠缺」状態にある放射性物質の学校環境衛生基準について、放射性物質を環境基本法の規制の対象に組み込んだ2012年環境基本法改正とそれに対応する放射性物質の環境基準の設定(その不履行)及びこのような事態における「法の欠缺」状態の補充の方法等が必要な調査であり、これらの調査を尽くしていなかった。

(b)、収集した証拠から事実を認定するにあたって、適正な評価をしていない場合(経験則違反)

適正な評価をしなかった。仮に放射性物質の学校環境衛生基準について必要な調査を尽くしていたとしても、「法の欠缺」状態にある放射性物質の学校環境衛生基準について、条理等によって補充するという適正・必要な評価をしなかった。

(c)、収集した証拠からいかなる事実が認定されるか。

その結果、「放射性物質の学校環境衛生基準は追加線量年2.9μSvである」という結論を引き出さなかった。

基準(具体的裁量基準)の認定の過誤

(a)、要考慮事項を正しく認定していない場合

(1)、「被ばくの危険のない安全な環境で教育を受ける子どもたちの人権を保障」は最大の考慮事項である。これを具体化した以下の事項も最大の要考慮事項の1つである。①「放射性物質の学校環境衛生基準」②セシウム含有不溶性放射性微粒子による内部被ばく問題。にもかかわらず基礎自治体はこれらを要考慮事項として認定しなかった。

(b)、考慮禁止事項を正しく認定していない場合

人権侵害を肯定する「福島県内の子どもたちを集団避難させないこと」は考慮禁止事項であるにもかかわらず、これを要考慮事項として認定した

基準の適用の過誤

(a)、事実を基準に当てはめる際に、考慮事項について正しく考慮していない場合(考慮事項の過小考慮または過大考慮)本件は「過小考慮」という過誤

(1)「被ばくの危険のない安全な環境で教育を受ける子どもたちの人権を保障」という要考慮事項を極めて軽視している。なぜなら学校施設の汚染データを年追加線量2.9μSvという放射性物質の学校環境衛生基準」に当てはめていないから。
(2)
、「セシウム含有不溶性放射性微粒子による内部被ばく問題」という要考慮事項も全く若しくは殆ど考慮していない。

(b)、事実を基準に当てはめる際に、要考慮事項相互の比較衡量を適切にしていない場合
とりわけ行政庁の処置によりもたらされる公共の利益、処置決定に至るまでの経緯、処置により損なわれる私的ないし公共的価値等の諸要素、諸価値の比較衡量に基づく総合判断として行なわるべきものが適切にしていない場合。

(1)、比較衡量の誤り
本件はどの施設で教育を実施するかが問われているもので、教育を実施するか否かが問われているのではないから、基礎自治体の処置によりもたらされる公共の利益というものは格別存在しない。よって、処置により損なわれる恐れのある「被ばくの危険のない安全な環境で教育を受ける子どもたちの人権」の利益だけを考慮すれば足りる。

(2)、諸要素、諸価値の総合判断
複数の考慮事項が並存する場合、裁量判断の違法性の有無は、これらの事項の比較衡量に基づく総合判断として行われるべきものであって、これらの事項から一つを単独で取り出して、それのみをもって違法か否かの判断をしてはならない。

() (c)、事実を基準に当てはめる際に、考慮禁止事項について正しく考慮していない場合

考慮禁止事項である「福島県内の子どもたちを集団避難させないこと」を要考慮事項として扱い、なおかつ最大限の考慮を払うという重大な誤りをおかした。

() (a)、いかなる処置をするかの選択の基準に反して選択をした場合[3]

「最善の選択」の形成のため代替案の比較検討を一つもしなかった(もししたというのであれば、基礎自治体から主張立証すべきである)

6、二審判決の誤り

本件では基礎自治体の「判断過程」において、上記表記載の看過し難い過誤が認められ、それらを総合判断した結果、基礎自治体が原告らが現に通学している学校施設で教育を実施したことは裁量権の逸脱・濫用と言わざるを得ず、違法を免れません。にもかかわらず、二審判決は誤ってこれを裁量権の逸脱・濫用ではないと判断しました。

7.「判断過程」の事案解明の実現

 上記表のうち行政の「調査義務違反」の有無、「要考慮事項相互の比較衡量」、「代替案の比較検討」などは行政が自ら主張しない限り、「判断過程」の過誤の解明は果たされず、裁量権の逸脱・濫用か否かの判断も出来ません。しかし、原告らの強い求めにもにもかかわらず、二審裁判所は全ての論点で「判断過程」の事案解明を放棄したのです。つまり、この時点で裁判所は君子豹変し、行政追認の司法消極主義に転じ、逃げ込んでしまった。

以 上

 

 

 



[1] その意味は○、一審判決の評価、2の脚注1と脚注2を参照。

[2] それは司法消極主義と司法積極主義の適切な使い分けをした、処分の「手続」に着目した審査方式のことで、近時の最高裁の審査方式です。

[3] とりわけ「最善の選択」の形成のため代替案の比較検討をしなかった場合たとえその比較検討をしても「最善の選択」の形成のために尽くすべき考慮を尽くさなかった場合。

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